タイプ996:水冷水平対向エンジンを初搭載した911

ポルシェは1997年に、911の第5世代であるタイプ996の導入に伴って、空冷エンジンからの別れを決断します。新型911を開発するに当たり、同社は伝説的なモデルの34年間続いたコンセプトを大幅に転換し、緊急課題を解決することにしました。そこでの焦点は、先代モデルで始まった生産コストの削減に当てられ、新型ボクスターなどの他のシリーズとの共通部品数を可能な限り高める努力が行われました。また、最新の安全基準および排ガス規制への適合も重要な課題となりました。タイプ996とともに、ポルシェは未来への道を踏み出したのです。

伝承されてきたプロポーションを守りつつも最新技術を搭載し、伝説的なスポーツカーを新定義して将来性のあるモデルを生み出す、という困難な課題が996には与えられていました。新時代の幕開けはセンセーショナルであったと言えるでしょう。それは既にデザインに表れています。

エレガントでありながら華美過ぎない完全新開発のボディが出来上がりました。新型911のボディは全長が18.5 cm延び、シリーズ史上2度目の拡大が行われたホイールベースは80 mm長くなり、全幅は3 cm拡大しました。これはインテリアに好影響を与え、996ではドライバーが肘をこれまで以上に自由に動かせるようになり開放感が高まりました。ダッシュボードも新しくなり、5個の丸型メーターは相互に食い込む形状になっていますが、これも伝統からの離反です。

しかし何と言っても最大の変革ポイントはリアに搭載された水平対向エンジンであることに異論はないでしょう。空冷エンジンでは、日増しに厳しくなっていく排ガス規制へ将来的に適合できなくなるのは明らかでした。新開発の水冷システムは将来性があるものであり、そのことは出力値についても言えます。この4バルブ6気筒は3.4リットルの総排気量で300 PSの出力を誇りますが、これはかつての伝説的な911ターボ3.3に匹敵する数字です。フェイスリフト後のエンジンは総排気量3.6リットルで出力320 PSとなり、記念モデル「911誕生40周年記念車」の出力は何と345 PSにも達します。

911ターボにも新しい水冷水平対向エンジンが搭載されました。この3.2リットル6気筒エンジンは、1998年にルマンで勝利した911 GT1に既に搭載されていたものなのです。ツインターボの効果で、市販車両での出力は420 PSに達します。この出力を得た911ターボは、300 km/hの壁を突破した初のポルシェ市販モデルとなりました。911 GT2では、このエンジンは483 PSと驚異的な最高出力を発揮します。またGT2では、セラミック製ブレーキディスクを備えたPCCBがデビューを飾り、このスーパースポーツモデルに標準装備されました。これはスチール製ブレーキディスクを備えたブレーキより50パーセント軽く、耐用走行距離は最大300,000 kmとなっています。

同エンジンをターボなしで搭載した911 GT3は、公道でもサーキットでも最高のドライビングを楽しむことができる新たな時代の到来を告げるモデルでした。また同車はポルシェのワンメイクレース用車両としても活躍し、カスタマーレースであるポルシェカレラカップが世界中で大成功する起爆剤となりました。タイプ996に搭載された3.6リットル自然吸気エンジンは、前期型では360 PS、後期型では381 PSの出力を発揮しました。2003年に、さらに研ぎ澄まされた911 GT3 RSが登場しました。1997年から2005年にかけて、タイプ996は合計175,262台生産されました。

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